桜色ノ恋謌



その日の撮影を終えて控え室に戻ろうとすると、建物の裏から話し声が聞こえて思わず立ち止まった。


足を止めたのは、それが高橋さんの声だったから。


……しかも……。




「……できれば顔も見たくなかったわ!」





高橋さんにしては珍しく激昂したような声に少しビクついた。


……私に言ってるんじゃないんだろうけど……。

相手は誰だろ?



「……俺は、一時も琴子の事を忘れた事はなかったよ……」




相手の声に聞き覚えがありすぎて、私は直ぐ様建物の影に隠れる。




「……本当は、琴子と、生まれてくる赤ん坊を選ぶつもりだったんだ。だから、別れた女房とはそういう事はしなかった。………ずっと…後悔してた……」



高橋さんの相手は、……倉木さんだ。


「仕方がなかったでしょう !? あなたはもうあの人との結婚は決まってた。私は妊娠してても身を引くつもりだった。それがあなたの将来の為だったから。子供を流産してしまったのは…辛かったけど、それでも私は… !!」


高橋さんの言葉は遮られた。





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