桃橙 【完】
静かに階段を下り、すっかり冷めてしまったご飯を視界に入れたまま、イスに力なく座った。



「安芸が、…青柳社長の……?」



わなわなと雅の体は震えていた。



「……どういうことなの…っ」



どこかで雅は思っていた。


安芸よりも自分は幸せであると。


安芸を羨ましく思い、妬ましく思いながら、全て安芸から奪ってきた。


それでも一番欲しかった遙…兄の愛情だけは奪えなかった。


憎く思いながらも、どこかであざ笑っていた。


お前は絶対に私よりも幸せになんてなれない、と。


その安芸が、あの青柳社長の娘で…


自分の憧れの宗元 総と婚約…


そして…



「お兄様が、安芸を愛してるですって……?」



自分は異常だと思っていた。


血の繋がる兄に、恋心を抱く自分は異常なのだとずっと思っていた。


……なのに…



「安芸…っ!!」



雅の中に、燃えるような火がついた瞬間だった。
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