桃橙 【完】
「お姉様…ごめんなさい…」



安芸の細い指で、雅の手を握って、安芸は涙を流した。



「…私たちが…お姉さまの家族を頼らなければ…お姉様は…」



わかっていた。


…家族が誰もわからない気持ちを


安芸は…わかっていたのだ。



「いいわよ、今更よ」


「今なら…私を殺せますよ…」



微笑みながら薄く目を開いて言う安芸に、雅は怒鳴った。



「何言ってるのよ!!…馬鹿なこといわないで…っ」



憎かった。


本当に憎くて、殺してやりたいと思った。


自分のこの手で。



「………」



だけど…



「私は……あのライターで…本当は別荘に火をつけようとしたのよ…っ」


「………」


「だから…私は…っ」


「お兄様の…大切な、場所だから…やめたのでしょ…う…?」



どうして……



「安芸…」



どうして…



「助けてくださいました…」


「どぉして…っ!!」



雅は、思わず安芸を抱きしめた。


どうして…


自分の気持ちをこんなにもこの子は汲んでくれるのだろう。


わかってくれるのだろう……


今更だ…


全てが今更…


雅は涙を堪えて安芸の肩の怪我を見る。



「……酷いわ…」


「総さんが…必ず…、来てくれます…」


「えぇ、そうね…私もそう信じてるわ」



ギュッ、と安芸の手を握りしめた。
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