桃橙 【完】
「総」


聞こえた声にハッと顔を上げると


「浩介…」

「行けよ。俺達先に行ってるから」

「だが、」

「いいのか?そっちの話にお前が行かなくても」


クイッと首で蔵宇都を指して、俺に挑むような視線を送る浩介に思わず言葉が詰まった。


「………」

「今回の商談は確かにお前がいた方がスムーズに話が進む。でもな、いなきゃいないでなんとかなる。俺達部下を信用しろ。そうだろ?」

「浩介」

「早く終わらせてこい。なんとか引き伸ばして待ってるからな」

「すまない、頼む…頼んだ、浩介」


そのまま大原 浩介は、不敵な笑みを浮かべながら部下達を連れて国際線のロビーへと消えていった。


「…蔵宇都、行くぞ」

「はいっ、宗元さま」


まだ謝罪の言葉をいい出しそうな蔵宇都を総は制した。


「いい。お前の顔を見ればわかる。…ただし、陶弥の小言は覚悟しておけ」

「覚悟しております」


蔵宇都がどれほど、安芸を大切にしていたかなど自分が一番よく知っている。

そして、自分にも安芸と同じように尊敬の目を向けていたことも。

そんな蔵宇都を責めている場合ではない。
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