送り狼

表情一つ変える事なく、はらはらと雫を落とす栞の身体が

黒い靄に覆われ出す…。


そう…


栞が唇を開いた時、すでに呪いは発動していたのだ…。

行き先を失った呪いは、自らに跳ね返り

術者へと戻ってくる…。



栞は静かに瞳を閉じる…



願わくば…

次に生まれ変わる時には

人らしく、人間らしくありたい…。

巫女などではなく普通の家の、

普通の人間として生まれたい…。


山神様の愛する、

山神様の愛した、

人間として生まれたい…。



栞の身体が完全に黒に覆われた。



願わくば…

来世でも山神様と出会いたい…。

沢山笑って、

沢山泣き、

そして、共にありたい…

山神様……


儚い願いを胸に抱き、栞の瞳から最後の雫が

流れ落ちた…。



そこで栞の命はこときれたのだ…。



自らの呪いによって

誰にも看取られず、たった一人で…。




ーーーそれから数十年後ーーーーー




栞は鳴人として生を受けた…。

死の直前の儚き願いも虚しく…

山神神社に生まれ、

しかも、今世は男として……



運命を司る神がいるというのであれば……


鳴人は間違いなく、その神を呪い殺すだろう。


『僕は二度と繰り返さない!!』


だから、鳴人はよく笑う。

だから鳴人はよく泣き、怒る。


前世で叶えられなかった願いを一つでも多く叶える為に…。


鳴人は、あの日の夏代子のように

宵闇に瞳を凝らす。



『僕は同じ事を繰り返さない!!

 僕は…過去にも今にも呪いをかける…。

 少しでもその軌跡が変わるように…』


決意を秘めた瞳だ…。




鳴人の紡いだ呪いは…

すでに動き出していた…。


誰にも気付かれる事なく、ひっそりと…。


それは、栞と鳴人の紡いだ二重の呪いだった…。







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