送り狼

「…で…なんでまた、料理なの?しかも、筑前煮。」

鳴人が怪訝な表情で問いかける。


「…と、突然食べたくなったのよっ!!

 そ、そうっ!!

 昔懐かしのおばあちゃんの味が恋しくなったの!!」


とってつけたような言い訳に、鳴人は


「……ふ~~~ん…」


と、何やら意味深な横目を向けてくる。


「さっ!!気を取り直してもぅ一回!」


私は、そんな鳴人の視線から逃れるように、

その辺にあった食材を手当たり次第に鍋に放り込み、火をかけた…。


「…ボンっ!!!」


「!?」


爆発したっ!?


鍋の中の食材があちこちにはじけ飛ぶ!


「………~~~~~~!!!」


俯いて奮える鳴人に、恐る恐る視線を這わせると…。


「……どう~して、料理が爆発するのかなぁ?」


顔を上げた鳴人の髪から、醤油色の物体がドロッと垂れた。


「…あは♡…ど、どうしてかしらねぇ?ふ・し・ぎ♡」


私はこれ以上鳴人を刺激しないよう、引きつった笑いを作る。


「もぅいいっ!!君には付き合ってられないよっ!!かしてっ!!」


ついに、堪忍袋の緒が切れた鳴人はそう叫ぶと

私を押しのけ、包丁を握り、手馴れた手つきで食材を切り刻み出した。


「うわっ!!はや~いっ!」

「どいてっ!!邪魔っ!!」


鳴人に鬼のような形相で一喝され、すごすごと土間の隅に寄り、それを見守る。


鳴人はまるで、魔法でもかけるかのように

手際よくその作業を進めて行く。


その姿には感心するばかりだ。


女の子に見間違う程の、綺麗な容姿に、料理上手。

その上、微妙な関係でありながらも、

なんだかんだ言って、こうやって面倒も見てくれる。

女に生まれていれば、良妻賢母である事は間違いなしだ。


それに引き換え……


自分の不出来っぷりには溜息しか出て来ない。


『生まれて来る性別、お互い間違えたよねぇ~』


なんてくだらない事を考えていると


「出来たよっ!!」


鳴人のイラついた声で、我にかえる。


「え…?もぅ?早くない?」


ろくに料理も出来ない癖に一丁前な事を言う私に

鳴人はさらにイラついた声で続けた。


「後は煮込むだけっ!

 それなら、料理音痴な君にもできるでしょっ!?」

私の表情がパアっと明るくなる。

「うんっ!鳴人、ありがとうっ!」

「全く!!女の癖に料理も出来ないなんてっ!!」


…そのフレーズ、何処かの誰かにも言われたような気が…


「じゃぁ、僕はもう帰るからねっ!!

 二度と僕にこんな面倒な事頼まないでよっ!!」


キッ!!と私をひと睨みし、鳴人は

まだ何やらブツブツ言いながら帰って行った。






 
< 108 / 164 >

この作品をシェア

pagetop