送り狼

「ひゃぁーっ!!びしょびしょだよーっ!!」

走り出して3分程でバス停には着いたが、その間に雨は

「ザァァァァァーーっ!!」

から、激しい風を伴いだして、

「ゴォォォォォーーーーっ!!」

という騒音を上げる程の嵐へと変わっていた。

おかげで、私は、バケツをひっくり返して頭から水を被ったかのようにびしょ濡れだ。

幸いこのバス停は、広さは2畳ぐらいだが、周りがコンクリートのブロックで囲まれており、雨風は十分にしのげる造りになっている。

避難場所に到着し、少し安心して空を見上げてみると、分厚い暗雲に、時折、稲光が走っているのが見えた。

「…まいったなぁ。これじゃ暫くここを動けないよ」

そう言いながら、びしょ濡れになって肌に纏わり付くTシャツをグッと絞った。

「…ゴロゴロゴロ…」

ついには雷まで鳴り響く始末だ。

私は、最高に機嫌の悪い空を見上げるのは諦め、バス停の奥に設置されている、木製の古い長椅子に、体を丸めるように膝を抱いて座った。

雨に濡れたせいか、少し肌寒い。

まぁ、何はともあれ、私にとって帰宅が遅れる正当な理由が出来る事は、ありがたい事だった。

何も考えないまま家に帰って、もし銀狼に出くわしでもしたら……

…もぅ、なんか、それ自体失敗だろう…。

想像するのも恐ろしい。

こうなったら、貴重な時間を、神様?がプレゼントしてくれたと思ってとことん考えよう!

どういうタイミングで切り出すか、から始まり、真実を告げられた後の、銀狼のあらゆる反応まで想定して…、どうせなら、パターン5ぐらいまでは作っておきたい!

まずは切り出すタイミングだよねっ!

出来るだけ機嫌が良い時に言いたい……

……そうだっ!!

銀狼にカレーを作ってあげようっ!

この前の夜みたいに、食事に誘って!

銀狼も、カレーには興味あるみたいだったし、カレーを嫌いな奴なんていないよねっ!?

きっと、機嫌も良くなるはずっ!!

そして、そして……


「…………」


短い溜息をついて、顔を膝に埋めた…。


今、私は、少しおかしい……


自分でも解っている。


こんな風にあれこれ考えるのは、何も銀狼の為だけではない。

もしかすると、真実をそのまま銀狼に語った所で、夏代子が言うように笑って済む事なのかもしれない。


私はやっぱり怖いんだ…。


本当は…心の何処かに、本の少しだけ自分が夏代子だったら…っていう期待があったのだと思う。

鳴人のように、生まれ変わりっていうような設定で…。

ほら…だって、なんか、ロマンチックじゃん……

こんな事が言えるのはきっと、私が『夏代子でない』という事がはっきりしたからだ。

自分が自分でないかもしれない、という恐怖が消えた今だからこそ言える事。

そんなの解ってる。


…私が、『真央』が、『夏代子の記憶を宿した別人』だと銀狼が知ったら…


彼は、どう思うのだろう…?

そして、私に、どんな態度を取るのだろう…?

もしかすると、もう会ってくれなくなるのかもしれない…


私にとって、それが恐怖だった。


山神の社に出向いた時も、私の血に眠る夏代子に会った時も、私には強い決意があった。

それは今も変わらない…。

銀狼が好きだから…

好きだから、漏れなく恐怖もついてくる。



< 153 / 164 >

この作品をシェア

pagetop