送り狼

「な…によ……。何よっ、何よっ!?

何で私が銀狼にそこまで言われないといけないわけっ!?」


感情が激流の渦となって、言葉として吐き出されていく。


「あたしだって、鳴人が山神神社の神主だなんて、

 知らなかったわよ!」


視界までもが滲んでいく…。


「あ…あたしだって、傷ついてんだからねっ!?

 あんた達こそ、一体何なのよっ!

 あたしに、何を求めてるの?

 あたしに、何を望んでるのよっ!!」


銀狼は、私の言葉に困惑の表情を浮かべ、見下ろしている。


「あたしは……何も解らないっ!!

 何も知らないっ!!」



自分の感情をコントロール出来ず

その苦しさから息が上がる…




熱い雫が頬をつたう……




銀狼の顔が見れない…


泣き顔を見られたくないのに、

私の両腕は銀狼に縛られていて、

情けない顔を隠す事もできない……。



ただただ、感情に任せて、雫が頬を濡らす…。



沈黙の中、私の喉の奥が

「…っ…っ…」

と言葉にならない悲痛な思いを奏でる。



「………すまなかった」



銀狼の静かな声が耳に響く。



「……お前は……夏代子でないもの…な……」



銀狼の口から出た予想外の言葉に驚いて、

私は、崩れた表情のまま彼に視線を合わせた。



涙で滲んで見える銀狼は、困ったように眉を八の字にして

私を見下ろしている。



「……お前が……夏代子でないのであれば……

 あの時の…あの娘は何処へ行った…??」




「……夫婦になろうと…約束を交わした娘は…

 何処へ行ったのか…?」



銀狼の言葉に徐々に熱が込もる。


「…お前が何も知らないのであれば……

 夏代子は消えて無くなったのか…??」



彼の表情は頼りない程に、歪んで行く…。



「…お前が夏代子でないなら……

 夏代子は何処へ行ったのだ!?

 真央っ!教えてくれっ!!」



そう言って銀狼は私を強く抱きしめた。


彼の悲痛な想いが重く、痛く、

私にのしかかる。


涙が溢れ出て止まらないっ…!



私は彼の想いを包み込むかのように

彼の広くて、頼りない背中を抱き返した。



「…真央…俺はどうしたらいい…?」




銀狼が呟いたか細い、力ない声に、耳が痛い……



私達は、お互いの気持ちの隙間を埋めるように

強く抱き合った。


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