送り狼

何たる失態!!

ありえないっ!!


「いやぁ~、僕も今世は男だからねぇ~!
 
 良い物見せて貰ったよ♡」


そう言いながら鳴人は可愛らしい笑顔で私を眺めている。


「は?今世??何訳わかんない事言ってんのよ!」


布団を自分の身体にグルグル巻き付けながら、

昨日の今日でヘラヘラと私の前に現れた鳴人に

『そんな事よりも!』と言い返そうとしたその時…


鳴人の緩んだ愛らしい笑顔が急に凍りついた。


「やれ、やれ…。真央ちゃんは何も知らないんだね」


口元には笑顔を称えながら、

その視線は刺すように私を射抜き、

彼の良からぬ想いを伝えてくる。


「な…何よっ!?」

「………」

冷たい視線は私を責めているようにも感じる。


「……別に…。なぁーんにも知らなくて、なぁーんの努力もしないで

ただ守って貰うだけの存在の癖に、山神様からも、犬神からも愛されて

いいご身分だなぁって思っただけえ」


一つの文章に皮肉が山盛りだ。

一体何なんだ!?


「………やけに嫌味な言い方じゃない?」


睨み返す私の視線と鳴人の冷たい視線が絡み合う…。


「…別にって言ってるじゃん。

 僕に絡まないでよ」


何食わぬ顔で私の前に現れて、何て言い草だろう?

腹の立つ……

ただでさえ、虫の居所の悪い私はさらに言い返した。


「…私の苦労も知らない癖に…」


「…そんな、雀の涙程のちっぽけな苦労なんて知らないね。

 真央ちゃんこそ、僕の苦労も知らないじゃん…?」


雀の涙程の苦労!?

鳴人は一体何が言いたいの!?


「…あんたの苦労なんて知るわけないでしょっ!?

 昨日は一体何だったのよっ!?

 あたし、あんたの事信じてたのにっ!!」


鳴人は無表情な視線を私によこす。


「勝手に信じたのは真央ちゃんでしょ?

 世の中そんなに甘くないよ」


彼は至って冷静だ。

私の言葉に冷静に一つずつ返してくる。

その冷静さが、余計私を感情的にさせた。


「じゃあ、あんたは何なの!? 

 敵なの味方なのっ!?

 どっちなのよっ!?」


鳴人の大きな瞳が、さらに大きく見開かれた。


「…敵か…味方か…?」


私は無言で鳴人を睨んでいる。


「……あっ…はっはっはっ!!何それっ!?」


鳴人は突然大声を上げて笑いだした。


「真央ちゃんは、そんなくだらない事で正否を考えてたの?」


「…な、何よっ!?くだらなくなんか……」


「くだらないよっ!!」



鳴人が一喝する。



私に向けられたその瞳には



殺気にも似た怒りが宿っていた…。



 




 
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