どこからどこまで
 差し出されたパーカーを受け取って、羽織る。


「あ」

「…ん?」


 翔ちゃんの匂いだ。


「……ううん、なんでもない」


 ブランケットを畳んで外にでる。車のドアを閉めると思っていたよりも大きく音が響いた。それだけ周りが静かなのだ。

 ぐーっと伸びをする。

 海の匂いだ。

 それほど塩っぽい匂いはしないが、そう思った。


「翔ちゃん、ブランケット、ありがとう。このパーカーも」

「ん?うん、どういたしまして…じゃ、行こっか」


 車の鍵が閉まったことを確認して、翔ちゃんが先に歩きだした。

 が、あたしがすっころんだために翔ちゃんにぶつかってしまった。


「うわっ」

「えっ!?」


 ちなみに"うわっ"があたし、"えっ!?"が翔ちゃんである。せめてもう少し可愛らしい悲鳴があげられたなら、自分の鈍くささ加減にも救いようがあったのかもしれない。

 翔ちゃんにぶつかったあたしはとっさに翔ちゃんの服を掴んでしまった。しかしさすがは男の子、翔ちゃんはあたしの腕をひっぱりあげ、あたしの重い体を支えてくれたのだった。


「大丈夫!?」

「だっ、だいじょぶ!ごめん、ほんとごめんなさい!あたし迷惑しかかけてない…!」

「いや、なんで。迷惑とかそんな、」
「だって料理できないし結局寝ちゃうし上着忘れるし挙げ句の果てにはこけるし……っ!」

「寝起きでちょっとふらついただけでしょ」

「怖いわ~…自分が怖い……」


 どうしてもっとこう、しっかりできないんだろうか。かろうじてまだ十代だが来年は二十歳である。ハタチである。成人である。

 内面が、高校生どころか中学生の頃から成長していない気がする。年ばかりをくっていく。

 なにこれ、急に、本気で怖い。

 ついさっきあたしを支えてくれた人は、あたしとは違ってどこまでも大人だ。はるかに大人だ。
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