恋愛ターミナル

「すげぇ量だな、オイ。ちゃんと片付けられんのか?」


口はむかつくこと言うけど、こうやって何気なく優しいところが好き。


「人のこと言うより、自分のもの片付けなさいよっ」
「え? あー……ま、今度な、今度。あ、メシ。なんか食ってくか?」


分が悪くなると、いつも誤魔化して話を変える。
そういうとこは、高校(むかし)から。


「モチロン、徹平の奢りでしょ?」
「言うと思った」


こうして並んで歩くと、嫌なこととかむかついたこととか忘れさせるんだよね、徹平って。
それがいいところでもあり、でもなにも変わらないっていう欠点もあり……。


「元気だった? 仁科(にしな)と朝比奈」
「え? なんで」
「凛々はあいつらくらいしかいないだろ」
「い、いるわよ! 誰を誘おうか迷うくらいっ」
「へー」
「ちょっと! 真面目に聞いてよねっ」


さっきまで溜め息交じりで帰ってたのが嘘のよう。
私は俄然元気になって、お店に着くまでの間、ずっとこんな調子で徹平に絡んでた。


「腹減ったぁ。好きなもん食べようぜ」


小さな居酒屋に辿り着いた私たちは、大抵奥の2人席に着く。

そこは、ハタチになって初めて一緒にお酒を飲んだ居酒屋。
当時、何気なく入ったお店だったけど、これがまた安くて美味しい。

和食のメニューが多いっていうのが、他のお店との違いで、私たちのお気に入りのお店になった。


「えーと、ビール2つ。あと、串盛りとブリ大根。それと牛スジ煮込みとほっけ」
「あ、あと」
「豆腐サラダも」


……結局、「好きなもん食べようぜ」とか言っても、私はなにも言わずに終わる。
でも、私の食べたいものは全部上げられてるから、なにも言うことないんだけど。

長いこと一緒にいると、こういうとき、ラクはラク。
気も遣わないし、恥じらいもないし。



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