お嬢様の事情その1

夏の地獄水泳

問題が起きたのはその一週間後、先生のこの一言で私たちは凍り付いた。

『今年度高校一年体育学習は水泳とする。』

その言葉を聞いて私は凍り付いた。

そんな・・・!

体育館でオリエンテーションを聞きながら隣の綾美に小声で話しかける。

『ねぇ?静香はどうなるの?どうするのかしら。心配だわ。』

すると呆れた顔で綾美は溜息をついた。

『何をいっているの?彼女が自分でなんとかするわよ。』

そうピシャリと言われて二の次がない。
『綾美・・・。』









そのオリエンテーションの後は偶々お昼休みで皆でカフェで集まった。

『あ、私は牛頬肉の赤ワイン煮にするわ。』

優がメニューを綾美に回す。

『私はいつもの。』

素っ気なくおしぼりに手を伸ばす。

『迷うわー。うーん。私はほうれん草と鱈のクリームソースソテーかな。』

私は静香にメニューを回す。
ありがとう。とメニューを受け取るといつもの柔らかい笑みで『私、キノコと山菜のパスタにするわ。』と述べた。

優が定員を呼んでいる間、私は静香のことが気になって仕方がなかった。

優は明るくて天真爛漫。
これと言って気にしていそうではない。

綾美はそもそも関心がない気がする。

『あ・・・。あの・・・。』
そう私が口をモゴモゴさせると三人が不思議そうに見る。

『どうしたの?林檎?』
静香から柔かにそう言われてしまうとどうしても聞きにくい。

『えっと・・・。』
次の言葉が出てこない。

『私、思い当たる所があってよ。』

私は申し訳なくなり目を伏せた。

『いいの。林檎に心配をかけてしまったかしら。』

静香はそう優しく話す。


『私ね、体育の授業は免除しないつもりよ。』

小さいけれど凛としたよく通る声で言い放った。


三人は目を見合わせた。
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