あの加藤とあの課長*SS集
直人

いつか思い出になる君へ

転勤先に向かう途中、パーキングエリアに寄ってコーヒーを買った。


有名チェーン店のコーヒーは、いつもと変わらず美味しい。

これがチェーン店のいいところだ。



『私、コーヒー飲めないの。』



約5年前の彼女の言葉を、なぜか今さらになってふと思い出した。

なぜかと考えてから、先ほど久々に言葉を交わしたせいだろうと気が付いた。


まるで夢のようだった。
また、彼女とああして言葉を交わせたことが。



「陽萌…。」



愛しい彼女の名前をうわ言のように呟くと、彼女の笑顔が脳裏を過る。



『直人!』



そう俺を呼ぶ彼女の笑顔が…。


本当に、好きだった。
今だって、好きなんだ…。

だけど諦めるためにも…、俺は、新地で頑張らなきゃいけない。


生渕さんと陽萌を、心からちゃんと祝えるように。



空を見上げると星が輝いていた。



陽萌と知り合ったのは、本社に上がってすぐの研修期間中のことだった。

陽萌と、晋三と、俺と、3人。


それからすぐにそれぞれ部署に配属されて、関わることも減るかと思っていた俺。

だけど、予想に反してそんなことはなかった。



『直人ー! 今日、晋ちゃんの家で呑みね!』



2つ下だというのは知っていたが、彼女の直向きな姿勢だったり、朗らかさに惹かれた。
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