あの加藤とあの課長*SS集

好きな人には誠実さを

「毎度ー!」



威勢のいい声を背に、明るくなり始めた世界へと足を踏み出す。

どんな夜も明けてしまうんだから、嫌なもんだ。



「仕事~…。」



酔った口は適当に言葉を紡ぐ。


玉川 敏雄、女ならたぶん1番楽しいんじゃないかと思う、25歳。

初冬、仕事をクビになって早1年。


原因は、分かりきってる。
てか、言われたし。



「オカマもオネエも同じ人間だっつーの。」



時代が時代、そういった類いに対する偏見が強くて、アタシたちみたいなのは居場所を失いつつあった。

なんて世の中は厳しいんだろう。


ここまでは貯金を切り崩して生活できたけど、そろそろ仕事に就かないとやばい。



「やーっぱゲイバーとかかなー…。」



それだけは嫌だったのに。

なんか、社会からの逃げ場みたいな感じがして嫌なのよね。嫌なものには蓋をして、安全な世界に身を置くみたいで。


人がする分には構わないけど、自分がするのだけは許せない。



「はぁ…。」



なんて言ってなんないのが現状よね…。


自棄になって酒に溺れる毎日。

空が白む頃店を出て、家路につく。化粧を落としてカツラを外したら、いつものアタシ。
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