君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)

──いや、どちらからともなく、というのは嘘だ。


したのは私。

新庄さんは、受けとめてくれただけ。


触れる直前に、ためらうように身体を引いたのを私は見逃さなかった。

けれどそれも一瞬のことで、残りの距離を新庄さんは迎えに来てくれた。


重ねるだけのキス。

少し離れてはついばむ、繰り返し。


目を開けると新庄さんの閉じたまぶたが見えて、切なくて、思わず上着の胸の辺りをきつく掴んだ。


ことんとグラスを置く音がする。

一度唇が離れたと思ったら、いきなり小さく噛みつくように口づけられて、驚いているうちに完全に離れていった。


私を見下ろす瞳は優しい。

だけど私の心は暗く落ち込んだ。


彼の顔に浮かんでいたのは「後悔」以外の何物でもなかったから。


先に動いたのは新庄さんだった。

指に挟んだままだった煙草を叩いて、灰を落とす。


もう一方の手は、いつの間にかポケットの中。

泣きたくなるくらいやわらかい微笑みで、それでも少し困った顔で。



「餞別?」



そう聞いてきた。


残酷な、優しい鬼。

夢も見させてくれない。

その手は、ついに一度も私に触れなかった。


終わったんだと、わかった。



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