君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)

ため息が出る。

やっぱり、会ってしまうとだめだ。


この人が好きだ。

なかったことになんて、できるわけがない。


車の中ではお互い、話すことが見つからなかった。

ただそれは、以前のような、親密さを確認できるような沈黙とは違った。


送別会での衝動を苦々しく思い出す。

私があんなことしなければ、前みたいに笑いながらドライブを楽しめたのかも。


浮かんだ考えをすぐに打ち消した。

わかってて、やったんだから。

あのままじゃ絶対につらいと思って、行動したんだから。


だけど選ばなかった方の選択肢というのは、いつでも魅力的に見えるもので、こんなふうにまた車に乗ることがあるんだったら、もう少し我慢しておけばよかったと、そう思ってしまうのは止められなかった。



マンションの前に着いた。

長いようで一瞬の、無言のドライブ。


アイドリングの振動がシートから伝わってくる。

きっと新庄さんは、私が降りるのを待っている。

けれど私は、このまま別れるのだけは避けたかった。


たとえば秀二とだったら、こんな気持ちのまま、あてつけに車を降りることだってしただろう。

だけど私と新庄さんには、修復するチャンスがなさすぎる。


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