君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
「さいわい、弊社の担当者が頼もしいので」
私の恨めしげな視線に、気づいていないはずはないだろうに、新庄さんはしゃあしゃあと言ってのける。
「ですね、大塚さん、本番までまたよろしくお願いします」
「こちらこそ、具体案に落とし込んで、来週前半にはお持ちします」
では、と会議室を出ていく本間さんを見送る。
ドアが閉まった瞬間、我ながら低い声が出た。
「…新庄さん」
「帰るか」
「新庄さん!」
「わかった、悪かったって」
そんなうるさそうな顔をする権利が、ある!?
「できたんだから、いいだろ。少しでも早いほうが、今後も楽になるんだ」
「そういうことを言ってるんじゃありません」
騙すような真似をされたことが、納得できない。
だからと言って、あと数日あれば、もっといい提案ができたとは思わないけど。
釈然としない気持ちでいると、背中をぽんと叩かれた。
見上げると新庄さんが、微笑んでいる。
「やったな」
手が触れた場所が、熱い。
私を見見下ろす目が、びっくりするほど優しくて、返事も忘れてぽかんと見とれた。
「まだ、これからだ」
「はい」
ビルを出てみると、もうすっかり日が暮れて、心地のいい風に秋の匂いがした。