君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
口を開いたら泣きそうだった。


やっぱりこんな話、するんじゃなかった。

私を気にしてくださいと言っているようなものだ。

わざわざ、めんどくさい女のレッテルを自分に貼ってどうするの。


急いで車を降りて、振り返った。



「ありがとうございます、気をつけます」



ドアを閉めると、助手席のウインドウが少しだけ下りた。



「俺が車の日は、送ることもできるから。心細かったら言って」



淡々とした声だけど、その響きは優しい。


勘弁してよ。

もう、私のそばにいる必要はなくなったくせに。

そのことをなんとも思っていないくせに。


ありがとうございますとか、そうさせていただきますとか、なにか言おうとしたけれど、言葉が出てこなかった。


佇んでいたら、行け、というように新庄さんが手を振った。

部屋に入るまで見ていてくれるつもりだ。


私は一礼すると、くるりときびすを返し、マンションに駆け込んだ。

車から見えなくなるまで、涙を拭うわけにはいかなかった。


私はきっと、もうあの車には乗らない。



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