君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
控え室に戻ると、いるのは新庄さんだけだった。

今日は黒子役なので、全員ダークカラーのスーツと決まっている。

新庄さんは上着を脱いだ姿で、立ったままテーブルに手をつき、運営マニュアルをじっと見つめていた。



「今まで気づかなかったんだが」



私の方を見ないまま話しだす。



「この会場の搬出路、出たらすぐ国道なんだな」

「そうですね…?」

「三連休の最終日だろ。上りは相当混むだろうから、搬出車両が詰まって、撤収が手間取る気がする」

「あっ、たしかに」



言われてみればそうだ。

搬入は連休前の夜だったので、気がつかなかった。



「大塚さんたち、今日も泊まり?」



会場が郊外なので、私と設営スタッフは木曜から近くのホテルに泊まり込んでいた。



「いえ、今夜の撤収後に帰る予定です」

「ならブースを閉める前から、見えない部分はバラしはじめた方がいいな」



見取り図を指で示す。



「どうせその頃は暗くなってるし、お客様の導線を変えて、サブステージのトラスは先に解体しちまおう」



なるほど、さすが、鋭い。



「変更の連絡流します」

「昼飯の後でいいだろ」



言いながら、お弁当を手渡してくれる。



「長めに休憩とるといい、木曜から動き通しだろ」



大丈夫です、と私が応えるのも聞かず、上着を取り上げると、新庄さんは控え室を出ていった。


ふうっとため息が出た。

たしかに動き通しだ。

それでも新庄さんと一緒に現場にいることで、私は妙に元気だった。


お茶を用意して椅子に座った時、ドアがノックされる音がした。

どうぞと返事をすると、見覚えのある女性が顔をのぞかせる。



「失礼します、秘書課の堀越といいます」



お弁当のフタを開ける手が止まった。



「新庄さん、いらっしゃいますか?」


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