君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
この人、私のことをどう思ってるんだろう。

そういえば、これまで考えたことがなかった。


ただの部下、よりは…世話のやける部下、くらいかもしれない。

それが『ただの部下』より上なのか下なのかわからなくて、じっと考えていると、おい、と声をかけられた。



「疲れたか?」



私はこの人のことを、どう思っているんだろう。

この人と、どうなりたいんだろう。 


もう一度「おい」と小突かれて、私はようやく我に返った。




マンションの前に車をつけてくれる。

これももう何度目だろう。

バッグからアイロン済みのハンカチを取り出して、新庄さんに渡した。



「ありがとうございました、これ」



貸したことを忘れていたらしく、新庄さんは一瞬まごついてから受け取った。

給湯室での醜態を思い出される前にと、私は急いで車を降りる。



「おやすみ」



開いたウインドウ越しに、優しい声が聞こえた。



「おやすみなさい」



新庄さんが見守っていてくれる中、エントランスに向かう。

ストールを胸の前でぎゅっとかき合わせる。


饒舌で、優しくて、ちょっと戸惑うくらい緩かった、この日の新庄さん。

今から思えば、あれは彼なりの、別れの挨拶だったのかもしれない。



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