君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
こういうところは察しがいい。

肯定と受け取られるのを覚悟で、黙っていることしかできなかった。



「送る」



言うと思った。



「いいです」



即答すると、彼がびっくりしたようにこちらを見る。



「この後、用事があるんでしょう?」

「夕方までに戻ってくればいい」

「それでも、いいです。まだ明るいし、ひとりで大丈夫です」



不自然にならないように、なるべくさらりと言ったつもりだけど、かたくなな私を訝るように見下ろす視線が痛い。



「出てきたついでに、買い物でもしようと思ってるので」



もう一度送ると言われたら気持ちが揺れてしまいそうで、急いでそれだけ言ってフロアを後にした。

誰もいない廊下に、ヒールの音が響く。


──もう少し、見てやれるつもりだったんだけどな。


要するに、もう見てやれないってことでしょ。

だったら半端なこと、しないでよ。

こっちは一緒の時間がちょっと増えるだけでうれしくて。

いつ次があるかって期待して、自分が特別扱いされてるような気分に酔ってみたりして。


私のそんな思い、これっぽっちも気がついてないんでしょ。

エレベータをいらいらと待ちながら、追いかけてきてくれるのをどこか期待している自分に、心底うんざりした。



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