君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)

翌週は、あっという間に過ぎていった。

林田さんとふたりで担当していた雑誌の業務を、私ひとりで受け持つことになり、その引継ぎやら勉強やらでおおわらわだった。


送別会は金曜日に決定した。

新庄さんがこの部署に出社する、最後の日だ。


日時と場所のメールを全員に展開すると、新庄さんから「忙しい中ありがとう」という短い返信があった。


新庄さんは言っていた通り、新旧の部署を行き来する毎日だった。

とはいえ、こちらにいるときはほぼ林田さんと会議室にいるか外出しているかで、姿を見かけることはほとんどなく、金曜日を迎えた。



朝からすっきりしない空模様だった。

天気予報では夕方から雨。

会社に傘を置いてあったか不安になり、念のため折りたたみの傘をバッグに入れる。


湿気で髪がふくらむのが嫌で、トップの髪だけうしろにまとめた。

鏡の中の自分と目が合って、いつも通りの顔であることに少し幻滅する。


結構、普通に過ごせるもんだな。


今週で最後とか今日で最後とか、いくら悲劇に浸ってみても、目の前には仕事があって、毎日会社に行って、クライアントに会いに行って取引先に行って、メイクだって身だしなみだって、いつもと同じように気を配る。

これからもたぶん、そうやって私は変わりなく生活していくんだろう。

新庄さんがいなくなった後も。


そんなもんだよね。


送別会で頻繁に脱ぎ履きすることを考えて、ストラップのないパンプスを選ぶ。

私は今日の最後、どんな顔をして新庄さんと別れるんだろう。

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