君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
私は個室を出て、喫煙スペースに向かった。

店内の奥まったところに、今時誰が使うのか、ピンクの電話の置いてあるスペースがある。

完全なデッドスペースと化したそこは、スタンド式の灰皿が設置され、煙草が吸えるようになっていた。


のれんをくぐると案の定、新庄さんはそこにいた。



「お疲れ」



しれっと声をかけてくる。

あれだけ飲んでいたにもかかわらず、ほとんどいつもと変わらない。

かろうじて、少し陽気に見えるくらいだ。



「課長がお探しでしたよ」

「もう忘れてるだろ」



あっさり言われ、私もあっさり「そうです」と認める。

見れば水割りのグラスまで持ってきて、すっかり長居をする体勢だ。

飲み会の場が得意じゃないんだろうか。



「幹事、疲れたろ」

「そうですね…」



主賓に言うのもなんだけど、実際、疲れた。

この後も花束や贈り物など、なんだかんだ段取りがあって気が抜けない。



「ちょっと休んでいったらいい」



無責任にそんなことを言う。

私はともかく、新庄さんは戻らなきゃならないだろうに。


宴会の喧騒が遠くに聞こえる。

ここはBGMも絞られて、ちょうどいい静けさだった。



「課長、いつも以上のハイペースですね」



右腕がいなくなるのが寂しいんですよ、と言ったら新庄さんが笑った。



「俺、あの人とは縁があるんだ」

「縁?」

「俺を採用したの、課長なんだよ」



採用って、入社時のこと?

なんだか唐突な話題にぽかんとしていると、彼が続ける。

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