カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―

エレベーターはそのまま止まっていたらしく、すぐに乗り込むことができた。
他に誰もいないエレベーターのドアが閉まると、やけに大きな音に聞こえた。

ボタンの前に立った俺は、斜め後ろに立つ本庄をちらりと見て話し掛ける。


「先日は……どうも」
「……はい」


どんな反応を見せるかと思ったが、やっぱりこいつはただの優男(やさお)じゃないらしい。
返事に多少の間はあったにしても、表情も声色も変えず、ただ、移動するランプを見上げているだけ。


「さっきの……森尾と、知り合いで?」


彼女は少ししか会って話したことはないけど、いわゆる“肉食女子”ってやつだろ。
きっとお前を狙ってるんだろーよ。
だけど、彼女よりも何枚も上手(うわて)っぽいお前なら、食われることなんかないだろうな。


「いえ。『知り合い』というほどではないですけど」
「へぇ。もしかして、告白されたんじゃないんですか? モテるから」
「神宮司さんほどじゃないですよ」


口元だけに笑みを浮かべて、決して嫌味に聞こえないように本庄は言う。
本当に腹ん中ではなにを秘めているか、読めない男だ――。

このままじゃ埒があかないし、なんにも変化せずに上辺の会話で終わるだけだ。


そう思った俺は、思い切って名前を出す。


「――阿部とはもう、会いました?」



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