カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
クリーム

 side 本庄要




『彼女の理想とオレは、違うかもしれない』


そう思ったのも、言ったのも自分だ。――なのに。


なんで、どうして。

もっと簡単なんじゃないのか?
人と人とが手を取り合うのなんて。


さっきまで掴んでいた美雪の腕の感触を確かめるように、右手を見つめる。

俯いていたせいもあって、誰かが目の前にいることなんか気付きやしなかった。


「――――何回泣かせんの?」


自分の手の奥に見えたのは、モスグレイのネクタイ。
バッと顔を上げると、オフィスで見たよりもずっと険しい顔をした神宮司さんが立っていた。


「今日、会社でもなんかあったんじゃなくて?」


男のオレからでもちょっと見上げる彼は、こんなとき、すごい威圧感。
それに怖気づいたわけじゃない。

さっき美雪がここにきたときから、オレの動悸は鳴りやまない。
そのせいで、ほんの声が少しだけ、震えるんだ。


「――『何回も』?」


神宮司さんの前でも泣いたのか……。

別になんの約束を交わしたわけでもない。
ただの自己満足と優越感。“自分だけ”っていう特別がただ、うれしかったから。
だから、美雪が他の男の前で泣き顔を見せた、っていうことが心底悔しい。


真っ直ぐと立つ神宮司さんを見て、その悔しさから、つい強がりを口にしてしまう。


「じゃあ、もし次に、神宮司さんの前で泣いたなら、あなたが涙を拭えばいい」


涼しげな瞳の奥に、熱いものを感じさせる神宮司さんに、それ以上なにも言えなかった。

ジャリッと靴音をさせてすごすごと戻るオレは、尻尾を巻いて背を向ける負け犬のよう。
しっかりと力強く立って、仕事も心も安定してる彼に、自分の敵うところがひとつも思い浮かばない。


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