カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―

そのひとことに足を止め、振り向いて神野さんを見た。
すると、神野さんが私の足を止めてしまったことに遠慮して、言葉を飲み込んだ。


「――なに?」
「あ……いえ。ただ、“もしかして”と思っただけなので。阿部さん用事あるんですよね? また今度でもいいです」
「……大丈夫よ。約束とかってわけじゃないから。どうぞ?」


もう一度向き合って私が言うと、神野さんが申し訳なさそうにしながら早口で詳細を口にし始めた。


「いえ……今日、開店と同時にきたお客さんがいて」


伏し目がちになりながら、まるで今日はそのお客さんだけだったかのように、思い出しながらというよりも、たった今の出来ごとかのように話を続ける。


「髪の色素も薄くて、色も白くて。すごく綺麗な男性だったんですけど」


神野さんのひとつひとつの言葉を聞きながら、私も“もしかして”が大きくなっていく。


「ああ、でも、“色白”というより、少し青白いって言った方がいいかな? そんな顔色だったから余計に目に留まってしまって」


仕事中は纏めていた髪を下ろしている神野さんは、それを耳に掛けながら言う。


「聞かれたんですよね、オーシャンのペンについて」


『綺麗な男性』で、『顔色』が優れなさそうで、『オーシャン(うち)のペン』について聞く人。

そんな条件揃ってる人間なんて、そうそういないじゃない。


「そのペンって――」
「ダーマトグラフです。色(カラー)はライトブルー」


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