絶滅危惧種『ヒト』
翌日は昨日の騒動が嘘のように、新しい感染者は発生しなかった。


聖人はいつも通り、学校で授業を受けながら、斜め前の空いた席を見つめる。

一昨日亡くなった朋美の席だ。

昨日は朋美の葬儀に出席し、クラスメイト全員でその死を悼んだ。


でも……

聖人は不安で仕方なかった。


直接彼女の吐しゃ物に触れたのは三人。

その三人は気の毒だけど、おそらく発病すると思っているのだが、昨日あれだけの発病者が出たということは、

接触感染だけじゃなく、飛沫感染もあるのではないのか?

もしそうなら、ここにいる全員が、すでに保菌者なのではないのか?

昨日から、その想いが消えてなくならないのだ。


まだ高校二年生。やりたいことがたくさんあるのだ。まだ死にたくない。


視線を隣の席の梓に向ける。

朋美が死んでからずっと泣きっぱなしの、泣き腫らした目で、それでも休まずに学校に出てきている。

そんな愛しい彼女と、エッチはおろかまだ手さえ繋いだことがないのだ。

絶対まだ死ねない!


思わずその部分は、心の中で声を大にしてしまった。

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