絶滅危惧種『ヒト』
そのままぐったりとして、動かなくなってしまった母と娘。



「な、な、何で……」


直樹は唖然として、二人を見つめる。


なぜだ? せっかくワクチンを投与したというのに……。


やはり二人はすでに感染していて、ワクチンが間に合わなかったに違いない。


直樹は腰を上げると、重い足取りで次にワクチンを投与した患者の部屋に向かった。


エレベーターに乗り込むと、八階のボタンを押す。


すがるような顔の、原母娘の顔が浮かんだ。



「クソッ!」


直樹は悔しくて、拳を握り締める。助けてやりたかった。


臨床医ではないから、普段患者と触れ合うこともなく、誰かに先生と呼んでもらうことも少ないから、

患者として、医師である自分を頼ってくれた母娘を、何としても助けてやりたかったのだ。


暗い気持ちで八階の患者の部屋に入る。


「岡田さん。いかがですか?」


まだ若い岡田という男性患者に声をかけた。


「先生……」


「はい」


「何か変なんです……」


「変?」


「腕が」


「え?」


岡田がパジャマの袖を捲り上げる。



「な……」


直樹は驚いて言葉を失くした。

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