スキというキモチのカタチ。
「川藤さん、あんたいくつ?」



食事をしていたら、急に話しかけられた。

「35だ。」


だからなんだってんだ。


「へえ、若く見えるな。エリートサラリーマンって感じ。」

嫌味か。


「そりゃどうも。」


敵を知ってから攻撃しようって感じなんだろうか。


だが、余り不快感はない。


あるのは先日の“このはを抱きしめた不届き者”という感情。


飯もうまいし、ちらほら訪れる客に対する対応が何よりも細やかで好感が持てるくらいだ。

ヤバかったかもしれない。



告白が遅れていたら確実にこのはを奪われていただろう。



これからだって気を付けねば。



「君はいつからこのはと知り合いになったんだ?」


食後のコーヒーを飲みながら茅部に問う。



「そこの会社の人達はみんな顔見知りだよ。このはちゃんは新人の時から結構来店してくれてるからね。昼夜問わず。」



片付けをしながら目線も上げずに答える。

「このはちゃんに彼氏がいないって解って、やっと口説ける!って時になってあんたに掻っ攫われたんだ。
気分いいもんじゃねぇよ。」



…それはそっちの勝手だ。


「でもさ、今週になってランチを友達と食いに来てるこのはちゃん、すげぇいいオンナになってる。

…ムカつくけどあんたのせいだよな。」



手を止め大きなため息をつく。



「だけど諦めたくねぇんだよ。悪りぃけど。オレも34でさ、独りもんだし。」




…ほぅ、そうか。

だったら譲る、なんてことは世界がひっくり返ってもないから残念だな。



心のなかで悪態をつく。



「あんたが嫌な奴だったら黙って奪うつもりだったけどさ。

嫌な奴って感じでもないから、宣戦布告しとくよ。」




お褒めに預かり光栄です。


悪態を思いつく限りならべてみようか。




「このはの気持ち次第だ。

だがな、このはは10年俺を待ってくれた。
これからそれだけの愛情を返していくつもりだからな。

諦めた方がいいと思うが。」



ニヤリと笑ってから席を立つ。



「美味かった。また来る。」

支払いを済ませて出口まで行くと振り返り茅部にそう言った。



「またどうぞ。ありがとうございました。」




男の静かな恋愛バトルはこうして始まった。



< 27 / 37 >

この作品をシェア

pagetop