真夜中の足音(中編)
救出

「ハイ」

インタンホンから、陽子の静かな声が響く。

「あのー、安藤ですけど、何か叫び声とか聞こえたんですけど、大丈夫ですか?」

「・・・すいません。ちょっと映画を見てたんです。音が大きすぎたみたいで、ごめんなさい」

陽子は、沈痛な表情で伝えた。横では、丸山がじっと画面を覗いている。
安藤は、つい一ヶ月程前に入居して来た。その時、引越しの挨拶をしに、菓子折りを持って来てくれた。

それだけの関係だった。

こんな都会で、こうやって気を使って、声をかけてくれること自体が珍しい。
そして、陽子にはとてもありがたかった。だが、その気遣いに答えることは、できず無駄に終わろうとしていた。

「あ、そうですか。なら、いいんです」

「はい、本当にありがとうございます。気をつけますから」

陽子は、彼の気遣いに答えられないことが悔しくて泣けてきた。

「あ、ついでなんですけど!

 実家から、タマネギをたくさん送って来たんですけど、いりませんか!?」

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