眠る湖(シリーズ3)

東尋坊

○道
木村刑事と山田刑事が歩いている。

(山田)「重要参考人は各務原悦子25才。
スーパーのレジ係でまだ勤めたばかり。
あの日以来店には来ていません。湖周辺でも
痕跡は見つかりません」

(木村)「ふむ。すぐに手配しよう。
親元と友人関係は?」

(山田)「三国町に50過ぎの母親が1人で住んでいます。
北海道松前から流れてきた海女で、ここ十年来の稼ぎ頭

だったそうです。今はみやげ物店の店頭でサザエを焼いていますが、
悦子には高校卒業してから1度も会ってないそうです」

(木村)「そうか、出たっきりか」
(山田)「友人関係は、高校時代の陸上部3名。
高三の時、山本という恋人を亡くしています」

(木村)「ああ、よく憶えている」
(山田)「そうでしたね、あの時の?」

(木村)「鏡湖で入水自殺を試みて、
悦子は助かり山本は水死した。その時
お母さんにも会っている、病院で」

(山田)「各務原と鏡湖ですか?」
(木村)「ふむ」
木村刑事、思案顔で黙り込む。

○東尋坊、先端
観光客でにぎわう東尋坊の先端。
木村刑事と山田刑事がいる。
絶壁を覗き込みながら、

(山田)「これじゃ、落ちたらいちころですね」
(木村)「夜もこのままだから、こわいよな」

(山田)「死神に取り付かれたら、ついふらふらと」
(木村)「ありうるな。後ろからどつかれても一発だ」
二人、絶壁をのぞきこむ。

○同、みやげ通り、夕
恵が店頭でサザエを焼いている。
夕方で人通りはまばら。
木村と山田、恵の話を聞いている。

(恵)「あの子も私と同じで男運が悪うてね。
好いた男にゃ逃げられるし。いやな男にゃ
付きまとわれるし。悦子は、高校卒業してからは

1度も私んとこへは帰っとらん。名古屋へ行くとか
言うとった。7年前じゃ。私も、こう見えても忙し

うてな。海女組合の理事やってるし、ベテランよ。
今でも時々潜る。もう5分は潜ぐれんがの」

(山田)「5分ですか?」
(木村)「・・・・・」
(恵)「今じゃ3分がええとこじゃ。素人と同じじゃ、ハハ」

(木村)「悦子さん、泳ぎは?」
(恵)「子どもの頃から泳ぎは得意よ。あの子は今でも
5分潜るよ。それでも高校生になると陸上部に入りよった。
よう分からんの。自分の娘でも、ハハハ」

木村、山田、サザエを食べている。
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