眠る湖(シリーズ3)

眠る湖

○鈴木の車、内
後部ドアが開いて木村刑事が乗り込む。
(鈴木)「あ、刑事さん」
(木村)「ふむ、奥さんから電話があって、たどり着いたらこの吹雪だ」

佳子、助手席で泣いている。
(鈴木)「悦子はたった今、氷上の割れ目に水没しました」

(木村)「そうか。覚悟の入水自殺だったんだな。
これじゃ助かるまい。寒波再来、捜索は無理だ。先導する。
ゆっくりとパトカーの後に着いて来なさい。
佳子さんの車は私が運転する」

(鈴木)「分かりました。ありがとうございます」

○山道、夕
吹雪の山道を列をなしてゆっくりと進む3台の車。

○鏡湖、夕
ふぶき舞う鏡湖の遠景。

○鏡湖
積雪の鏡湖。晴天である。
民宿の庭で、東山老人が孫娘アキと話している。

(アキ)「なかなか春は来ないね」
(老人)「あー。なかなか春は来ない。じゃが、
冬は必ず春となる。ハッハッハッハ」

アキ、無心に雪を掘っている。

○車販売店、外
二分咲きの桜が見える。
鈴木の車が入ってくる。
鈴木、降りて桜に眼をやる。

(鈴木)「もう春か?」

○湖岸
まだ氷の張った湖岸の桜並木を
帽子をかぶった東山老人が歩いている。
老人、岸辺を見、はっと立ち止まる。

老人、ゆっくりと水面に下りる。
かがみこんで氷の湖面を覗き込む。
帽子を掴み氷の面を磨く。

氷に閉ざされた美しい着物姿の悦子の顔。

○鏡湖の遠景
パトカー、救急車が止まっている。
人垣に木村刑事と山田刑事がいる。
恵の姿が見える。

(恵の声)「間違いありません、悦子です。・・・
主人が死んで、北海道から10才の悦子を連れて
福井に来ました。北海道の昆布漁に比べれば、

まだこちらのほうが楽なもぐりでした。
不倫同士が恋仲になってしもうて。
主人は自殺したとです」

○イメージ
東尋坊の遠景。

(恵の声)「その時の恋人が、北海道の自分の家族
を捨てて、福井まで追いかけてきました。ところが
その男は15の悦子を犯したとです。私と悦子は、

夜陰にまぎれて、その男をだまし、東尋坊の北の崖
から突き落としました」

○回想、月夜の東尋坊、崖の上
月明かり、東尋坊北側の草原。
絶壁の上に悦子が赤灯を持って立っている。

向こうから白灯の男が近づいてくる。
草むらに身を隠す母、恵。
長い竹やりを持って構えている。

(男)「悦子」
(悦子)「ここよ」
赤灯に白灯が急接近する。

白灯めがけて恵の竹やりが突進していく。
(男)「わーっ!」
宙に飛ぶ白灯と男の影。

○イメージ
月夜の東尋坊。
絶壁の上から白灯と共に
海に転落する男のスローモーション。

崖の上。月下にたたずむ母娘の影。

(恵の声)「とにかく、わしらは男運が
悪かとです。どうしようもないとです。

今度生まれてくる時は、ほんと
清らかな命でと願うとります」

○イメージ
鏡湖の水中。
沈み行く高校生の山本太一と
セーラー服の悦子のスローモーション。

○イメージ
月下の鏡湖にダイブする山下の四駆。

○イメージ
雪の鏡湖の氷上から水没する着物姿の悦子。
悲しくも美しいその眼差しがゆっくりと
氷の割れ目に沈んでいく。



                     ー完ー
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