流れ星になったクドリャフカ〜宇宙で死んだ小犬の実話〜

┣引き寄せられた出会い


「うわあああああああ!」


 僕は驚きのあまりのけ反り、階段を踏み外し尻餅をついた。


 ぎゃんぎゃんぎゃんぎゃんぎゃん


 僕の声と尻餅をついた音に驚いたのか、僕の度肝を抜いた暗闇に光る赤い目は、僕に吠えだした。

 子犬独特の甲高い声。

 階段の陰にいたのは、紛れもなく子犬だった。


 ぎゃんぎゃんぎゃんぎゃんぎゃん!


 白い体に茶色の鉢割れ柄の子犬は、僕に向かって牙をむき吠えたてる。


「ああ、驚かせて悪かったよ……」


 落ち着かせようと手をさしのべるが逆効果だったようで、子犬は飛びのきいっそう吠えたてる。


 ぎゃんぎゃんぎゃんぎゃんぎゃん


 尾っぽを足の間に垂らして、怯えきっている。

 暗くてよくわからなかったが、子犬はびしょ濡れで、僕は雨宿りの邪魔をしてしまったようだ。


「ほら、なんにもしないって。そんなに濡れてちゃ風邪ひくぞ」


 ホールドアップの体勢で子犬に近づくが、足を一歩踏み出すと、今度は低い声でうなり出した。


 がぐぅるううううううう


 ヤバイ、かまれる!

 瞬時にそう思った僕は後ろに飛びのき、子犬を保護することを諦めた。

 かといって、このまま見捨てるのもあまりに哀れで……


「おまえ、腹減ってないか?」


 袋に入った包みから、ホットサンドを一切れ取り出す。


「冷めてて悪いけど、ホラッ」


 ぽん、と子犬の前にホットサンドを投げた。


 ぐるるるる……


 子犬はホットサンドに目をやり、少しうなり声を弱めた。

 食べてくれるかと身を屈めて犬を覗き込み、口元を綻ばせた瞬間――


 ぎゃんぎゃんぎゃんぎゃんぎゃん!


 また吠えられた。

「あー、わかったわかった。見られてちゃゆっくり食べれないよな」


 子犬から離れ、階段に足をかける。

 まだびしょ濡れで風邪を引かないか心配だけれど、ご飯を食べれば少しはあったまるだろう。

 僕は警戒する眼差しを向けてくる子犬に微笑みかけながら、階段を上っていった。

 僕のところから子犬の姿が見えなくなるのと同時に、うなり声は途切れた。

 ホットサンドは食べてくれるだろうか。

 せっかく僕の貴重な夕飯をあげたんだから、食べてくれないと悲しいな。


 僕は子犬のことだけを考えながら、部屋に帰っていった。


 クドリャフカ。


 後にライカ犬として世界中に知られることになる彼女のことを考えながら……
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