流れ星になったクドリャフカ〜宇宙で死んだ小犬の実話〜
第3話「未定が予定」

┣見込み違いな人々

 あの子犬と初めて出会ってから一週間が過ぎた。

 二日続けて出会ったけれど、三日目はない。

 最後に行き会ったのがケンカだというのが気掛かりだった。

 あの子犬は傷を負ってしまっていた。

 傷が悪化してどこかで倒れているのかもしれない。

 いや、倒れているだけならまだいい。

 もしかしたら……

 僕は不安に思いながらも普段の生活を続け、かわいい犬たちとの仕事をこなしていた。

 そしてその日、僕やトラスキンさんをはじめとする下級職員たちはうんざりしていた。


「またですか……」

「悪いね」


 申し訳なさそうに僕らの前に立つのは、生体研究チームのリーダーであるウラデル・チェルノコフさん。

 生体研究チームは主に犬たちの訓練、ロケットに乗せるための設備やデータを取るために必要な機材を管理している。

 犬たちの世話をしている僕らと同様に、犬たちの訓練をしている彼らは犬たちととても親しい。

 朝、出勤した僕らが飼育室に向かうと、チェルノコフさんは犬たちを周囲にはべらせ至福の表情をしていた。

 宇宙開発局長から直々に空軍医学研究所から引き抜かれたエリートなのだが、そんな経歴を疑いたくなる瞬間だ。

 そして、僕らがやって来たことに気がつくとあるお願いをしたのだった。


「この間の、極小閉鎖空間への適応訓練でリタイアした犬たちが多かっただろう」

「そーですね」


 トラスキンさんが不機嫌を隠そうともせずに相槌を打つ。


「わんちゃんは常に二十匹はいて欲しいんだよね。またリタイアする子がいるかもしれないし」

「そーですね」

「だからね、またスカウトしてきて」


 語尾にハートマークがついていそうなおねだり声だが、チェルノコフさんはなかなかいい年だ。

 おちゃめなのはいいけれど、僕は寒イボが立つ腕をさする。

 犬のスカウトは簡単なようでとても大変だ。

 なんせ、ロケットに乗せられる犬の条件がとても厳しい。


「犬の条件は全部覚えているかな?」


 確認をするチェルノコフさんに、トラスキンさんはハイハイとやる気ない返事をして暗唱をはじめる。


「体重6kg以下、身長35cm以下」


 まだ大きな物を打ち上げるにはより高度な技術が必要だ。

 まだまだ研究段階の技術では、乗り込む犬ももちろん小さくなければならない。


「メスの犬」


 これは、犬に着せるスーツや排泄の関係でオスではなにかと不便が多くなるためだ。


「明るい色の毛並み」


 撮影機材も積み込む予定があるため、白黒写真にはっきり写る色でなければならない。


「ノラ犬」


 過酷な状況で育ってきたノラ犬の方がストレスに強いと思われる。


「更なる上は、青い目をしてハ長調で吠える犬を探してきますよ!」


 ハハハッ、とトラスキンさんは乾いた笑い声を上げてジョークを飛ばした。

 ジョークでも言わなければやってられないぐらい、この条件を満たす犬を探し出すのは大変だった。
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