流れ星になったクドリャフカ〜宇宙で死んだ小犬の実話〜
 全ての犬を逃がしたところで、また新しく犬を捕まえに行くことになるだけだ。

 最悪、なんの訓練も受けさせないままスプートニク2号にほうり込むことになりかねない。

 それぐらいのことをやらせる空気があった。

 もうスプートニク2号に犬を乗せることは発表されていた。

 ラジオではクドリャフカの鳴き声が流され、プレスリリース用の写真が何枚も撮られた。

 みんな、スプートニク2号に犬が乗ることを期待している。


 きゃんきゃんきゃん


 僕が前にクドリャフカにあげたのと同じ種類のホットサンドを買って店から出てくると、クドリャフカは大人しく街灯の前に座っていた。

 僕の姿を見るやいなや立ち上がり、リードを引っ張って駆け寄ってくる。


「いい子だね、クドリャフカ」


 僕は足元まで向かえに来てくれたクドリャフカの頭を撫でる。

 クドリャフカは、ほどけたリードを引きずっていた。


 ぎゃん、ぎゃんぎゃん!


「あっ、コラ。クドリャフカ!」


 クドリャフカが跳びはねて、ホットサンドの入った袋に噛み付く。

 いい匂いのする焼きたてのホットサンドに、クドリャフカは目を輝かせていた。


「クドリャフカ、帰ったらちゃんとやるから」


 なんとか袋から離れさせると、リードを持って歩きはじめる。

 少し注意したらクドリャフカは理解したようで、大人しくついてきた。


「本当に、おまえはいい子だよ……」


 僕よりも一歩下がって歩くクドリャフカに目を細めながら、弱々しい声で囁く。


「ほら、アパートが見えて来た。ここではじめて会ったね」


 角を右に曲がってゴミ捨て場を通り過ぎ、アパートに入る。

 郵便受けをチェックするが、空っぽだ。


「クドリャフカ、こっちだよ」

 きゃん


 僕はクドリャフカを連れて、アパートの階段を上がって行った。
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