deep forest -深い森-
深い森
車は、かなり長い間、森の中を走っていた。



冬でも枯れる事のない常磐木に囲まれた道は、昼間でも薄暗く、夜になると黄泉の国にでも誘いこまれそうな佇まいだ。


暫くすると、フワリと甘い香りが漂いはじめた。

梨乃は、くん…と、可愛く匂いを嗅いで、ボンヤリと瞼を開く。



「……お…にい、さ、ま?」



寝ぼけている時の梨乃は、普段より子供っぽい仕草で、コシコシと瞼をこすり眠気をさましている。



「起きたかい、梨乃。もうすぐ『伽羅』に着くよ」


蓮實は、そう言って、牡丹の図柄が刻印された懐中時計を取り出し、時刻を確認した。


8時30分


梨乃を風呂に入れて着替えさせ、髪を梳いてやるには丁度良い。


上客の予約の時間までには、梨乃に伽羅の香りをまとわせる時間も十分にある。


「お兄様…私、喉が…」


『伽羅』に近づくにつれ、梨乃はコクリコクリと唾を飲みこんだ。


「…喉が、渇いたわ…」


目が醒めると同時に襲う喉の渇き。


最近、何日かに一度はこうなる。

梨乃は喉を押さえて、窓の外へと視線を向ける。

私の…身体…オカシイ…
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