deep forest -深い森-
「梨乃にすぐ、例の物を」


「承知致しました。宮内、すぐ用意を」

「はい。ただいま」



蓮實に言われた執事の片桐が、メイドチーフのカヨに言いつける。

そしてカヨは、調理場に向かう際にメイド達に持ち場に戻るように指示。

白い折り返しの袖のある可愛らしい黒のワンピースに、白いエプロン、ヘアーピース、チョコレート色のブーツという西洋風なメイド服を着た若い娘達が、方々に散ってゆく。



ホールのソファーに梨乃を寝かせると、片桐は蓮實に耳打ちをした。


それを聞くと蓮實は。



「有り得ないな。何をふざけた事を。楠木男爵の出入りを今後一切封じるように」


と、忌々し気に吐き捨てた。



「蓮實さま。お持ち致しました」


調理場から戻ってきたカヨの手には銀色のトレイ。その上には美しい江戸切子のグラスに入った、赤ワインのような液体。


蓮實はそれを受け取ると。


「さあ梨乃、甘いお薬だよ?お飲み」



と、言って梨乃の背を起こした。



「…お薬…」



梨乃は蓮實から奪うようにして『お薬』を飲むと、1分程で、ふぅ…と息を吐いた。


身体を伸ばして立ち上がる。
すっかり気分は回復したようだ。
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