deep forest -深い森-

深見園生の口癖は…

『オレに、手に入らないモノはない』

だった。

祖父が時代の流れを先読みし、製糸業で巨額の富を築いたので

園生が深見に産まれた頃には財界に勢力を持つ大資本家(その中でも、最大の力を持つ一族)になっていた為だ。


何の苦労をする事もなく成長するが、祖父の財力に甘え、いつまでも売れない絵画ばかり描いている父、涼に嫌気がさし、庭師の男と逃げた挙げ句、情死した母に対してだけは複雑な想いがあった。


『女なんて、そんなもの』


園生の女性に対する冷めた態度は、母親を想う気持ちの裏返しなのかもしれない。

高い身長に均整のとれた体躯。何世代か前に異国の血が混じった為に、日本人にしては薄い色素の瞳。厭味な程に綺麗な顔立ち。

その気になれば遊ぶ相手には困らなかったが、財産を目当てに寄って来られる素人はゴメンだった。

どうせ、いつかは家の為の結婚をする。

深見に必要なのは、財力ではなく格式なのだ。

私学を学び終えれば、祖父の跡を継ぎ、祖父の望む華族の娘と結婚する。


好き勝手やってきた園生にとって、それは大した問題にはならなかった。

深山咲梨乃と、出逢うまでは……
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