眼鏡越しの恋



プールサイドで他の部員と準備運動をしていた瀬能君が、それまで来ていたジャージの上着を脱いだ瞬間、私の周りからそれまで以上の黄色い声が上がった。


上着を脱いだ彼の引き締まった体に、みんなが異常に反応している。


そして、飛び込み台の上に立った瀬能君が、無駄のない綺麗なフォームで水の中に飛び込んだ。


そのまま水しぶきを上げて泳ぐ瀬能君。
泳ぐフォームも全く無駄がない。
水泳のことに詳しくない私でも、それが特別なことだとわかる。
同じように泳ぐ他の部員の人達よりも一際目立つその綺麗なフォーム。


上がる水しぶきの間から見える彼の真剣な顔。
ゴーグルで目は見えないけれど、それでも彼の真剣さはその表情によく表れていた。


あっという間に50m泳ぎ切って、当たり前のようにスムーズに綺麗にターンする瀬能君に私の隣で見つめていた女の子の口から、「はぁ~」と甘い溜息が零れた。


そういう私も、瀬能君から目が離せなくなっていた。


瞬きするのも忘れるほど、水しぶきを上げて泳ぐ瀬能君に釘付けだった。


水泳はやっぱり彼にとって特別なんだ。
ただ見ている私にもそれが伝わるほど、瀬能君はイキイキとしていた。
まるで魚が海を泳ぐように、彼にとって水の中は一番、自然で輝ける場所なのかもしれない。



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