嘘つきキャンディー

ゴールデンウィークだからかそこそこ繁盛しているメイド喫茶に、カメ男と私の女二人。

明らかに浮きに浮きまくっているが、そんなことなんて全く気にせず、カメ男は注文したアイスミルクを飲みながら、私達の席を忙しそうに横切っていく元同僚達を舐めるように見つめている。


「なぁんだ…。猫耳メイドなんて王道詰め込んでも所詮は三次元だね。」

「鼻血鼻血。」


やれやれといった風にため息をつくカメ男に、私は冷静に指摘してやった。

形の良い綺麗な鼻からは、これまた綺麗な赤い血液が一筋伝っている。


「おっと。」

「おっと、じゃねぇよ。変態。」


白い指で無駄に優雅に鼻血をぬぐうカメ男に、私は冷ややかな視線を向けた。


そもそもなぜ私とカメ男がこんな所にに来ているのかというと、それにはちゃんと理由がある。


今日は借りていたメイド服を、お店に返しに来た。


無事ここのバイトを辞め、早数日。


もう矢野先生に対して後ろめたさは感じなくなったものの、私はあの一件、矢野先生から抱き締められた日以来、妙に先生を意識するようになった。

元々学校ではあまり話さない方だったけれど、最近では自分でも分かりやすいくらいに、先生のことを避けている。


今ではすっかり、目を合わせることすらも気まずい。


そんな状況に陥っているにも関わらず、私と先生は、ある約束をしていた。

その約束というのが、また私を悩ませているのだ。


制服を返しに行くときは、必ず先生に言うこと。

そんな約束をしてしまったことも、今では本当に後悔している。
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