【短編】体育祭で伝えられなかったコト
まぁとにかく、と彼女は続ける。
「幸せになって下さい。」
また、呆気に取られた。言い過ぎたかと、静華は怖くなった。その前に、このバクバクとうるさい鼓動は、手を通じて、彼に伝わってないかなどを考え、また焦り始める。
しかし、彼はありがとうと笑った。見るものを、勇気づけるような笑みで。
「静華ちゃんも、幸せになれよ。それも!絶対!ならないとおかしいから!」
その目が、あまりにも優しすぎて、手から力がなくなっていった。
偶然にも、彼がその時に手を離して立ち上がった。
「早く戻らねーと、全校競技始まるぜ!」
そう言って手を振りながら、彼はその場を後にした。
力はなかったものの、それでも小さく手を振った彼女は凄いのだろう。
それでも、そんな力はもうなかった。
「幸せになれよ。」
彼の言葉が、頭の中を反響する。静華が言ったことの、おうむ返しでしかないのだが、今の静華には重たすぎた。

何かが壊れた様な音がして、しかし抗わず、そのままの流れに身を任せた。汗の代わりに流れる涙
「しずしずー。だいじょっ、アンタ!?」
慌てて凪沙は、彼女へ駆け寄る。彼女は、ただ大丈夫だと笑う。涙は拭かない。拭いた手を、涙の原因が握っていたなんて、考えたくもなかった。

空はひどく青く、まるで自分の力のなさを嘲笑っていた。
日差しはひどく暑く、まるで自分の傷口を抉るようだ。



[fin]
あとがき→
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