蓮杖探偵事務所の飄々事件簿
「違う!」

冴子がもどかしげに声を上げる。

「手洗いのとこの鏡!鏡に目のない女の人が映り込んでて!」

「……」

言われるままに鏡を凝視する雛罌粟。

しかし映っているのは前髪をパッツンに切り揃えた自分の顔のみ。

「そんな…見たの!見たのよ!本当に!両目が刳り貫かれた気味の悪い女の人が…」

「きっと怖い怖いと思っているから、目の錯覚でも起こしたんだよ、冴子さん」

興奮気味にまくし立てる冴子を宥めるように、俊平が言う。

雛罌粟もほぼ同じ意見のようだ。

「そんなんじゃない!本当に…!」

尚も冴子は食い下がるが、実際に俊平と雛罌粟の前に現れない以上、その目のない女を証明する術もなく。

三人はこのトイレを後にするしかなかった。

< 33 / 440 >

この作品をシェア

pagetop