岸栄高校演劇部〆発端

腹を押さえ悶絶しているエイジは放っておいて、今は水川を勧誘することが先だ。エイジクン、ダマッテテネー。



「水川はさ、いつも本読んでんじゃん?それを表現するっていうか……、その世界に入り込める気がするんだよな、演劇って。

……って、なんかクサイこと言っちまったな、俺。ははっ、今のナシ。まあ水川の気が向いたらでいいから、返事考えとい………」


「はい、る……入りますっ!」

「!」



ガタンッと勢いよく立ち上がった水川。おまけに大声出すもんだから、クラスの連中からいっきに注目浴びちまった。


それに気づいた水川は顔を赤くして、すとん、と椅子に座り直す。


周りも興味をなくしてくれたみたいで、再び思い思いに過ごしはじめた。



「ううっ……ごめんなさい。大きな声出しちゃって…」


「いいって。それより、……入って、くれるんだ」


「う、うんっ。…よろしく、お願いします」


「こちらこそ」



互いにペコリ、ペコリと頭を下げた。


なんだこれ。顔を見合わせた俺たちは自然と笑った。うはっ、水川って笑うと、ほにゃあ、ってしててすっげ癒される。



「あ、のおー。俺のこと忘れてない?ちょっとギンくうーんっ、ボクちゃんちょう寂しいのーうっ」


「だあああっからっ、さっきから変な声出すなってーの!ほらっ、さっさと次いくぞ、次!」


「へいへーい」



エイジの背中を押し、次のターゲットへと向かう。


と、その前に。



「また後でな、水川」

「う、んっ……銀貝くん」

「ははっ、【ギン】でいいって」


「じゃあ……ギンくん、またね。えと、わ、私もっ、【ようこ】でっ…」


「ん、ヨーコ……「ギーンー、はあああやああくううううっ!」わあーったって!…それじゃ、また」



小さく手を振って『またね』の合図。


ああよかった。また新しく友達が出来た。やっぱ演劇はセーシュンを呼ぶってか。なんちて。

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