岸栄高校演劇部〆発端



ギンくんの様子がおかしい。そう、あの場にいた誰もが思ったはず。


私、【霧白 遥乃】も例外じゃないもの。ギンくんは何か隠してる。だけどそれを容易に聞けないことも分かってる。


ギンくんに昔なにかあったのかしら。本人でなくとも不安が募り、はあ、と溜め息を溢した。



「霧白さん、大丈夫かい? 僕でよければ話ぐらい聞くよ。美人さんには笑顔が一番さ」


「ありがとう、三鐘(さがね)くん。でも大丈夫、私よりギンくんの方がきっと不安になってると思うから」



つい先程ギンくんたちと別れ、委員会の仕事で教室に資料を運ばなくてはいけないため、こうして三鐘くんと歩いている始末。


おまけにあれだけ長い昼休みもあと5分程で終わりを告げるだろうから、3人で部員集めする計画がパァになってしまった。


一応、ギンくんのクラスの水川さんと私のクラスの三鐘くんは入部が決まったものの、あと8人は必要。


時間も少ないことだし、多くでも集めたいところだけれど……



「ギンくんのために、何かしてあげられないかしら」



はあ、もう一度溜め息をついた。


つと、見かねた三鐘くんが「君に出来ることなんて幾らでもあるさ。僕だってサポートするよ」、ウィンクと一緒に温かい言葉をくれた。


本当、三鐘くんはとても優しい人だと思う。でも男の人相手には不器用なのよね……。


「ありがとう」


にこり、と笑って返すと三鐘くんも笑い返してくれた。


ああ、こんな風に私もギンくんを元気づけられたら……。もう一度憂鬱になりかけた気持ち。


だけど、ふと脳裏に蘇る三鐘くんの言葉に、私はハッと顔を上げた。


『君に出来ることなんて幾らでもあるさ』
『僕もサポートするよ』


そう、そうだわ。私にだって出来ることがあるもの。


そう意気込んだ私はもう一度三鐘くんに、ありがとう、と言って教室へ早足で向かったのだった。


「ギンの奴に偉くご執心だな」


そう、三鐘くんが呟いたことにも気づかずに。
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