ワイドショー家族

「この現象の原因はね、実はお母さんにあるのよ」

「……ん?」

「水の一族が攻めて来たんだわ。この地球にはね、人類とは別に、水の加護を受けた水の一族と火の加護を受けた火の一族という存在がいるの。水と火は地球の覇権を賭けてずっと昔から戦ってきたわ。お母さんは火の一族最強の火気保持者なの。水に沈まない力を持っているの。だから泳ぐのが得意なのよ」

加奈はコーヒーをふきだしそうになった。

 なんだ、そのヘンテコな設定は。なんの冗談だ。

 が、母は肩を震わせ、目に涙まで溜めている。真剣そのものといった様子である。

「水が本気になったんだわ。攻めてこようとしているのよ。あたしの戦いに巻きこんでごめんなさい、戦闘準備に入るわ」

言い終わるなり、キラリと瞳を輝かせて階段を駆けあがっていった。

 海の上にいる現状よりも、両親のほうが心配になってきた。

「お父さんもお母さんも、どうしちゃったんだろう。これからどうしたら――」

不安を声にした加奈に、亜紀は微笑んだ。

「大丈夫だよ」

少しも大丈夫じゃない気がするけど、ぽやや~んとした笑顔に癒された。


 二階にあがり、父母それぞれの部屋を叩いてみたが、奇声や呪文のようなものが聞こえるだけで応答はなかった。

とりあえず今日一日くらいは、海の上にいてもいいだろう。亜紀と相談して、あの二人が正気を取り戻してくれるまで待つことにした。


クローゼットの奥から夏服を引っ張りだし、半袖半ズボンになって自室の窓をあけると、気持ちのいい潮風が入ってきた。

 雲ひとつない空、旋回する優雅な海鳥、白波ひとつ立たない海、きらめく水面。水平線はまあるく弧を描いている。穏やかで健康的な眩しい眺めだ。こんなに海らしい海を直接見るのは初めてだ。写真が撮りたい。


 だが、こないだお父さんのゴルフセットを使って一人接待ゴルフごっこに興じていたときにゴルフボールで作ってしまった穴がすぐ横にあり、このスペシャルビューを地味に邪魔している。

 何か美しい物で、自然な感じに塞げないだろうか。

「そうだ」

 机のひきだしから青く発光する玉を取りだして、にんまりする。呼吸しているみたいに、輝きが強くなったり弱くなったりする。

昨日学校帰りに家の前で拾ったのだ。


「これで壁の穴を埋めて、と」

 おお、美しい。ぴったりだ。


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