不滅の妖怪を御存じ?

有明








「坂口安吾全集?」


有明がタッチパネル画面を見て頓狂な声を上げた。

藍は黙ってその本の値段を確認しゲ、と顔をしかめる。
一冊一万円近くするようだ。
まさかこんなに高い本だとは。

しかもここの書店では取り扱いがないみたいだ。

ぎゅっとシャツの裾を男子トイレに握られる。

……なんだか自分で意図せずとはいえつけてしまった名前に罪悪感が募る。
名前変えてあげた方がいいのだろうか。
男子トイレだから略してダントとか。
さらに略してダン。

いいかもしれない。
藍はしゃがみこみ男子トイレとしっかり目を合わせてこう言い聞かせた。


「改名しよう。君は今からダンで。」


黒いクリクリの瞳が藍を数秒見つめ、コクリとその頭が頷く。
了承してくれたようだ。


「え、そいつ今からダンって名前になるの?」


上から有明の声がする。

藍は頷いてから立ち上がり再び本を検索し始める。
海から上陸した三人と蛍は近くの本屋に来ていた。

もちろん、藍の服があらかた乾いてからだが。





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