anjel








「幸望ちゃんから歌を奪いたくないんだ。あんなに綺麗な声で、相手の心を瞬時に奪うことが出来るのに、"歌いたくない"なんて、思って欲しくないんだ…」


鼻をすする音がする。


みっくん、泣いてるの……?


「俺は、世界中の人に、幸望ちゃんの歌声を聞いてほしい。でも、俺がこうやって病気になったことで、その機会を幸望ちゃんから奪ってしまうかもしれないって思うと、幸望ちゃんに会うのが申し訳なくて………」


そんなこと、ない。


「…そんなことないぞ、瑞希。」


私の気持ちを読んだかのように、


翔がそう言った。


「…幸望は、瑞希に会いたくてたまらなかったはずだ。」


「確かに、幸望ちゃんは"自分のせいだ"って言って泣いてたけど、"歌いたくない"なんて、一言も言ってないよ?」


「幸望りんは、もう昔の幸望りんじゃない。」


「…強くなったよ。幸望は」


ああ。


どうして、そんなに私を泣かせるの。


翔の最後の言葉が、私の胸を熱くする。










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