インストール・ハニー
 そうだったね。ゲームだったよ。そういえば楓はゲームアプリの王子様。それであたしのところにやってきた。忘れてはいなかったけど、見ないようにしてた。知りたくなかったから。

 大事な人だなんて言って、あたしはおかしな人間だろうか。

 オレンジの香りが部屋に広がっている。そして、楓の曇った表情を見た時に少しだった不安が、今はあたしの中で急速に広がっている。

「ゲームクリアの条件」

「……楓」

「いつか、話さなきゃいけないって思って……」

「やっぱりいいよ!」

 今度はあたしが、楓の言葉を遮った。こんなに言い澱むなんて、あたしが喜ぶ話じゃないのは明らか。

 君のためだよ。泣かなくていいよ。寂しければ俺を呼んで。そう言い続けてきた楓が、こんなにも表情を曇らせるのは初めてだから。


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