インストール・ハニー
「王子とは、王の子弟として出生し王位の継承権を有するが、まだ王として即位してはいない男子のこと。またはその称号。また転じて日本の神仏の名にも用いられ」

「ちょっと待って!」

 ウィキ?? この人ウィキペディアなの?

「瞬時に語句の検索もできる。辞書機能もあるし。どうだ、なかなか優秀だろう」

「ばかじゃないの。日本には王子様なんか居ないのよ」

「でも、俺は王子だ」

 なんでそんなに言い張るんだよー! 言い張るし言い切った。なにこの頭悪そうなイケメン。

「お父さん、王様なの? 日本に王様は居ないんだけど!」

 居たらむしろお会いしたいですけれど。「?」みたいな顔をしている彼。あたしの言うことがいまいち分かっていないらしい。

「……」

 ああ、これは夢なんだきっと。あたし夕食後にスマホいじりながら寝ちゃったんだ。きっとそうだ。涎垂らして寝てるんだよ。枕の縫い目がほっぺたに付いちゃってたりしてね。きっと。

「君だけの為に、俺は居る」

 おっと。

「君の為に、俺はここに居るんだ。それを理解して欲しい」

 ほらね。「女子が言われたい言葉ランキング」の上位に食い込むでしょう「君の為」とか言ってるし、これはあたしの深層心理であっていわゆるそれは失恋から来ていて、寂しいという感情の……ああ。とにかく。

「あたし……どう、すれば。どうしたら」

「どうもしなくていい。とりあえずは初めまして。驚かせてしまって悪かったね」

「はぁ……」

 まだ理解できていない頭は、一生懸命に目の前の人物をインストールしようとしているみたい。じっと顔を見て、鼻、唇、髪の毛。耳と、それから目。年の頃はあたしと同じくらいか……。


 作り物みたいな顔だな。ああ、作り物か……。作り物? ちょっと違うか。目の前に居るのはどう見ても人間だし。背中にファスナーでも付いてるのかな。どうでもいいけど、あたし混乱してる。

「しばらく世話になるから」

「し、しばらくって……」

 ここで? ここで暮らすってこと? なに言ってるの、この人。

「そんなことできるわけ……ご飯とかどうするの! 服とか! 洗濯!」

「心配いらない。俺の部屋はそのスマホの向こうだから。着替えもな」

 ウインクして人差し指を立ててる。ちょっと何その決め顔……。顔が熱くなるのを感じた。

「必要な時に、さっきみたいに呼び出せば良いから」

「ひ、必要な時……」

 ますます混乱。


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