Catch-22 ~悪魔は生贄がお好き~
「月舘紗綾、貴様だな?」

 低い声、冷たい声、見下ろす黒い瞳は片目だけでも射貫くようで声も出なくなる。

「知り合い?」

 香澄に問われ、紗綾は首を振るので精一杯であった。
 相手は自分を知っているのか。けれど、確実なのは、自分は知らないということだ。
 何かしてしまったのかと思っても、全く心当たりがない。これほどの人間を知っていたならば、忘れるはずがない。

 周りの女子達は遠目に見ながら、彼を格好良いなどと言っている。
 確かに端正な顔であると言えなくもないが、不気味でもある。
 本人はそれを気にするわけでもなく、紗綾が感じられるのは恐ろしいほどの威圧感だけだった。
 その目は人を黙らせる力を持っていると思った。
 何も寄せ付けようとしない拒絶の目、それがただ紗綾だけを見ていた。
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